【梅花春月】 個性的
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梅花春月

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個性的

明治
大木戸と伊藤





何です、それ? と、木戸の手元を覗き込み伊藤は首を傾げた。
木戸は紙に筆を走らせ、分からないものに線を足しては更に分からないものへしていく。
やがて、出来た、と独り言ち満足そうに筆を置いたのを、伊藤は呆れる思いで眺める。

「なんだと思う?」
「…何でしょう」

上機嫌に描き上がったばかりの絵を見せてくる木戸に、その絵の正解が分からず伊藤は眉を寄せた。
下手に答えて間違えると機嫌が急降下してしまうのではと危惧し、伊藤は頭を振り絞りあれこれと考える。
幾ら待っても返らない返答に、木戸は落胆し肩を落とした。

「…分からないか?」
「これ、似ていますか?」
「随分上手く描けたと思うんだけどね」

上手く描けているなら答えはとうに出ているだろうと思いつつ、伊藤は紙に描かれた子供の手慰みのような絵と睨めっこを続ける。
なんだかよく分からない三角と四角が組み合わさった箱のような物があり、その近くにこれまた何か見当もつかない細長いものが二つ寄り添うようにして宙に浮いていた。

「…あ、もしかしてこれは家ですか?」

箱のようなものを指差すと、木戸は大変満足そうに頷く。
どうだ、なかなかに上手く描けているだろう、と得意げな顔をする幼さの残るところはこの人の愛おしいところだと伊藤は思う。
自分であったからこれが家だと分かったが、聞多ならば無神経にもこれが家に見えるわけがないと笑い飛ばし大いに機嫌を損ねてくれたことだろう、と伊藤は親友の顔を頭に浮かべた。


「これをね、大久保さんに」

木戸は絵の描かれた紙を折り畳み、伊藤に差し出した。
それを受け取りながら、伊藤は怪訝な顔をする。

「大久保さん…ですか?」
「うん、大久保さんに」

何の意味があるんだ、と紙を開いてもう一度その絵を見る。
が、伊藤にはやはり家らしきものと細長い何かが二つにしか見えなかった。

「…これ、大久保さん分かりますかね?」

どんな謎掛け問答よりも難しいだろうと思いながら控えめに尋ねれば、木戸はにこりと笑う。

「それを渡して、仕事上はそうありたいと伝えておくれ」
「仕事上は?」
「当然、それ以外はお断りだ」

意味が分からず伊藤が問えば、木戸は嫌そうな顔を隠しもせずきっぱりと言い切った。
それから、と尚も木戸は続ける。

「もし貴方が無理矢理にに飛び立とうとすれば、私はすぐさまその家に帰ります、とも」
「…はぁ」
「じゃあ俊輔、頼んだよ」

ひらりと手を振る木戸に、行ってきますけど、と言いながら伊藤は一礼をして木戸の執務室を出た。
未だ伊藤には木戸の意図は理解できない。

先程木戸に渡された紙と数枚の書類を携え内務卿室のドアをノックし返事を受けてから中へ入ると、大久保は書類に走らせていた筆を止め、伊藤を目に止めた。
伊藤は忙しいところすみませんと告げてから書類の束を大久保へ差し出す。

「以前話していた件ですが、此方の書類の確認をお願いします」
「あぁ、分かりました。そこに置いておいてください」
「はい。あと、これを…」

折り畳まれた紙を差し出すと、大久保は中を見て首を傾げた。
これは? と尋ねられ、予想通りの反応に伊藤は眉尻を下げて笑う。

「木戸さんからです。大久保さんに、貴方が無理矢理に飛ぼうとするなら私はその家に帰ります、と伝えてくれって」
「…木戸さんが」
「何のことだか分からないですよね」

因みにこれは家らしいですよ、箱のようなものを指差せば、大久保は普段の無表情を変え口角を笑みの形へ吊り上げた。
えっ、と伊藤が声を上げる。
目を瞬かせている伊藤を他所に、大久保は絵の描かれた紙を丁寧に折り畳み大切そうに胸のポケットへと入れた。

「木戸さんに、伝えて頂けますか?」
「はぁ、何を…」
「個性的な愛の告白をありがとうございます、と」
「は?」
「それから、私もそうありたく思っています、とも」

楽しそうに告げる大久保に、伊藤は未だ理解が出来ず瞬きを繰り返す。
先程木戸の描いた拙い絵の意味を、大久保は理解したのだろうかと信じられない思いで見ていると、どうしましたと大久保に声をかけられた。

「あの、木戸さんは、何の絵を…?」

尋ねると、大久保は合点がいったという顔で仕舞ったばかりの紙を取り出し、中を開いて伊藤に見せる。

「これは鳥でしょう。家の近くに二羽の鳥が浮いている」
「これ…鳥だったのか」
「双宿双飛」

双宿…と、言葉の意味を考え、伊藤はハッとした。
慌てて政治の上ではの話だと付け加えようとしたが、それよりも先に大久保は愛おしそうに鳥らしき絵を指先でなぞりながら言った。

「常に私と睦まじい仲でありたいと、それならそう言ってくだされば良いものを」

フッ、と優越に似た笑みを浮かべて独り言ちる大久保に、『仕事上は』と言うように言われていたのを忘れていた自らを伊藤は深く呪う。
それと同時に、そんなややこしい絵を贈るな、と、木戸の軽率さを疎ましくも思った。



end


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Date:2016/02/05
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