【梅花春月】 お人好し
FC2ブログ
 

梅花春月

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

*    *    *

Information

□ TEXT □

お人好し

幕末
南土




「周りが言うほど、私はお人好しではないよ」

人好きのする穏やかな恩顔に苦笑を乗せて山南は言った。
土方が鬼と言われるのに対をなすように仏と呼ばれるその人が、その優しげな風貌からは想像できないほどの剣豪ということは周知の事実だ。
そしてその腰に帯びた刀を、かつての筆頭局長芹沢鴨以下の暗殺に際し血で濡らしたことも土方を含むそれに参加した者たちは知っている。

「私には近藤さんを浪士組に誘った責任がある。近藤さんを私たちの頭に担ぎ上げ新選組を成したからには、新選組のために心血を注ぐのは必定だと思っている」
「当たり前だ」

熱を持って語る山南に、土方は短い言葉で冷たく言い放つ。
山南は眉を下げて小さく笑った。
そうして目を細め、眩しいものでも見るような顔で土方を眺める。

「だけど私は、君ほど近藤さんを盲信はできないんだ。あの人を大切には思うし、あの人は新選組を率いるのに相応しい。だけどね、あの人だって間違える」

君のように全て投げ打っては慕えない、と山南は首を振った。
山南だけではない。
永倉や原田、藤堂とて同じだった。
近藤を特別な人間だとは思う、大切な人だとも、自分たちの旗印だとも。
けれどその根底は同志であり同列であって、互いに意見を交わし言葉を交わし信頼をし合った上に成り立っているもので、決して自らを近藤の下につく者だとは思っていない。

「私は今でも、あの人とは論を交わしたい。思いをぶつけ合って、考えを聞かせあって、共に道を見つけていきたい」
「俺達だってそう思ってる」
「そうは…見えないんだ。最近の土方くん達は」

全てを二人きりで決めているように思えてならない、と山南は寂しそうな顔をした。
自分の存在が蔑ろにされているとか、そういう寂しさよりも、変わってしまった関係に気持ちが追いついていかない寂しさだ。

「もう、私は君達に、必要なくなってしまったかな?」

情けない笑顔で山南は尋ねた。
土方は目を見開く。
そんなことを言われるとは思っていなかったからだ。

「…すまない。何も気付かない振りをできるほど、私はお人好しじゃないんだ」

何も答えない土方に、山南は視線を彷徨かせ、やがて下を向いた。
何か言わねば、そう思うのに、何を言っていいのかが分からず、土方は唇を開いては閉じる。
蔑ろにしているつもりなど、欠片もなかったのだ。
ただ、自分が良いと思うように近藤と事を動かしていく中で、山南の意見が見えなくなっていた。

「…脱退は、させねぇ」

漸く声に出たのは、そんな言葉だった。
土方は人の心を読むのに長ける、が、それを良いほうへ仕向ける方法を知らない。
どうすれば人が動くか、そういう事を考えることは得意だったが、近藤のように人を惹きつける力も沖田のように人と馴染む力も山南のように人を安心させる力も持たなかった。
ただ『此処に居て欲しい』と、『大切な仲間だ』と、そういう言葉を向けるだけで良いというのに。
山南が望んだのは、そんな変わらない仲間意識だけだというのに、それを伝える手段が分からない。

「法度に背いたら、幾らあんたでも切腹は免れねぇ」
「…土方くん」
「今更、新選組から離れるなんて馬鹿な真似はすんじゃねぇぞ。…それだけだ」

言えば言うほどに山南が心を閉ざしていくのを感じていた。
感じてはいたが、ならばどうすればいいのか分からない。
一方的に告げて、土方は足早に山南から離れた。
早くどうにかしなければならない、そんな焦りだけが土方の胸に巣食うのを感じながら、逃げるように自室へと向かった。


隊士の新規募集を機に、土方は新選組の編成を変更した。
名簿を受け取った山南は自身の名前の上に書かれた役職を指先で辿り、苦笑する。

「そういうことじゃ、ないんだけどね」

総長、と名を変えた自身の肩書き。
立場が副長の上に当たっていたのは、土方の気遣いだろう。
そしてそれ以上に、その主な職務が近藤の相談役、というのも。

「お人好しなのは、君の方だ」

擦り合わせていきたいというのに、どうにも掛け違う互いの気持ちを歯痒く思う。
遠くないいつか、袂を分かつ日が訪れるのではないかと、山南は悲しい気持ちで土方を想った。



end



スポンサーサイト

*    *    *

Information

Date:2016/10/24
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。