【梅花春月】 隠した答えは探さない
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梅花春月

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隠した答えは探さない

2000hit企画
mic様リクエスト
甘々な大木戸 大久保視点






背中に縋り付く腕は、随分と細く骨が浮くようであってもやはり男の腕だ。
嘗ては名だたる剣豪のそれであったものだが、今は少しずつ身体を蝕んでゆく病魔によりその力を取り戻すことはない。
抱き寄せた体内を断つ度に、綺麗に切り揃えられた爪が背中を刺し、自らが木戸の中をそうするのを疑似するように深く肉を抉られる。
浅い部分の痛みと、深い部分の快楽、それらが合わさると何故こうも例えようのない悦楽に変わるのだろう。
窓を閉ざし風も通らない暑く蒸した執務室の中、肉がぶつかり合う音とその行為に伴う水音、低く小さな吐息に混じり時折零れ落ちる甘い声、それ以外は何も聞こえない。
頭がぼうっと不鮮明で、ただ目の前の欲に従うだけの、ある種生物としての最も基本的な機能だけで動いているような感覚。
はく、と木戸の唇が動き何かを紡ぐ。
声にはならなかったそれが、自分の名だと気付き、自らの内にある全ての熱を打ち付けるように唇を塞いだ。


「好きですよ」

だらりと両の手を垂れ下げて、革張りの黒いソファに身を委ねた木戸が視線だけを此方に向けて紡ぐ。
行為の終わりと共に身体を離し、すぐにシャツに腕を通し始めた己を木戸はそのままの姿でじっと見つめていた。

「ええ、私も」
「いいえ、きっと私の方が」

ふふ、と甘やかに木戸が笑う。
そのような笑みは、こうした関係が生まれる前は決して見ることのできなかったものだ。

「ねえ、大久保さん」
「はい」
「愛しています、貴方だけ」

穏やかに、甘やかに、木戸は言葉を投げかける。
行為の前と同じに身支度を整え、そこでようやく向けられていた木戸の視線に応えた。
ソファまで戻り、疎らに散った木戸の豊かな黒髪を撫で付ける。

「私だけ?」
「ええ。大久保さんだけ」

にこりと微笑んだ木戸の額に口付けて、ほんの僅かに表情を緩めてみせると、珍しいものを見たとでもいうように少し驚いた顔をした。
戯れだ、とは分かっているが口にしない。
愛する者が互いだけであるはずがないのだ、何よりも愛おしいと思える妻を持つ身でありながら、木戸も自分も。
けれど木戸は言葉を望む人だった、それが偽りや戯れであっても良いと。

「私も貴方と同じ、木戸さんだけを好いていますよ」

故に、己も木戸の望むよう言葉を返す。
木戸自身、それが戯れであると分かっているに違いないけれど。

力無く重力に従い下げていた腕を此方へ伸ばし、腰を屈めた己の首に木戸はその腕を巻き付けた。
先ほど感じた時よりも体温はほんの僅かに下がっている。

「貴方とふたりで、何処か遠くへ行ってしまいたい」
「そうですね」

これもまた、戯れだ。
木戸は、己が何処へも行かないことを知っている。
そして木戸自身がもう何処へも行けないことも知っていた。


内務卿執務室、ふたりきりの時に限りその場所でのみ行われる戯れの戯曲。
演目や役者はいつも同じ。
観客など何処にも存在しないそれが幾度となく開催されるのは、言わずもがな役者がその公演を望むからだ。
それはいつだって偽りの、けれど、その戯れの中に、時折ポツリと本音が混じる。
他の誰にも、相手にも、自分自身にさえ気付かれないように、幾重にも重ねた戯れの中へ巧妙に織り交ぜる真実の言葉。

木戸の体を離し、足元に散らばった衣類を拾い上げる。
手渡すと、木戸は素直に受け取った。

「さあ、服を着てください。いつものように、戻りますよ」
「…はい」

終演の時間が来る。
今日の真実は、一体何処に隠されていたのだろうか。
それは敢えて探さないまま。
そうしてまた、次の公演を思い描いた。



end




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Date:2016/07/30
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