【梅花春月】 嫌いな男
 

梅花春月

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嫌いな男

2000hit企画
加奈様リクエスト
山南と土方の話 土方視点







頭のいい奴は嫌いだ。
理屈が全てのように何でも言葉の上で答えを導き出し、自分に知らないものはないとでも言いたげな顔で物を語る。
根拠はどうだの理論がどうだのと並べ立て、経験や勘、感情論なんかは馬鹿の言うことだとでも思っていやがるのだろう。

常に笑顔を浮かべている奴も嫌いだ。
たいして親しくもない相手にまでにこにこと笑みを浮かべ、まるで自らこそが仏であるかのように他人に許しを与える。
そういう輩は大抵が自身こそそうやって許されたいための予防線を張る臆病者か、或いは人を許すという行為に快感を得ているだけの偽善者で、どちらにしろ自身が不利になった時には躊躇いなく差し伸べたはずの手を振り払うのだろう。

簡単に他人を尊敬する奴だって嫌いだ。
たった一度立ち会っただけの癖をしてまるで知己の友のように彼を語り、元から自らの居場所であったかのようにその場所へ座す。
自身が今まで学んできたはずの剣術とは全く違う流派をあっさりと受け入れるそんな奴は信頼に足らないし、誰彼問わずすぐに心を許してしまうのだろう。


俺はそういう連中が大嫌いだ、そんなことを長々と説いた。
隣に座していた沖田は口を挟むことなく全て聞き終えると、ふうん、と気の無い返事をして、そうして呆れたように眉を下げた。
なんだかもう逆に好きなのかと思う程の執心ぶりですね、と、それだけを口にしてひらりと背を向けて行った沖田に、なんとも言葉が出てこず絶句したのは遠い思い出である。


どうして君は、とは、山南が苦言を示す時によく用いる言葉だった。
目の前に足を崩すことを知らぬとでも言うような礼儀正しさで座り、向かい合う俺の姿勢すら非難するように眼を細める。
まあまあ、と間に入る近藤はいつでも山南の話に感嘆していて、頑固なのは向こうとて変わらないというのに、宥め賺されるのはいつも俺の方。
餓鬼の喧嘩じゃねぇんだ、と近藤を睨みつけると、餓鬼じゃねぇなら折れることを知れと呆れたように言われ、一部始終見ていた沖田が噴き出すのが日常だった。

一度、そもそも近藤が山南をさんなどと敬称をつけて呼ぶのが気に食わないというようなことを口にしたことがある。
山南は眼を瞬き、近藤は何を子供のようなことを呆れ、顔を見合わせたふたりは可笑しそうにに俺を笑った。
土方くんは本当に近藤さんが好きだね、と平生の柔らかい笑みで告げられ、あんたが嫌いなだけだと返したらいい加減にしろと近藤の拳が頭に飛んだ。

京に登ってから、特に芹沢暗殺の後からは、互いの意見は一向に合わなくなった。
山南はいつもの穏やかさをどこへやったのかと思う程眉を寄せることが多くなり、俺はそれまで以上に冷たい言葉で山南を責め立てることが増えた。
徹底的とも言えるほど山南の意見と反対のことを推し進め、苛立ちに偽善の剥がれた鋭い視線が背中を刺す。
俺は山南が嫌いだったし、山南もきっと俺が嫌いだっただろう。
組織に大将も副官もふたりは要らない、それが俺の考えであったし、俺たちは互いに邪魔な存在だった。
…互いに邪魔で、そうして。


山南が最期に呼んだのは、沖田でも近藤でも、馴染みの婦でもなく俺の名前だった。
いつもと同じ穏やかな顔で、柔らかな声で、新選組のために、と告げたのだ。
君が新選組のためだけに生きるというならその方法を僕はもう止めはしない、僕も君と同じくただ新選組のために、僕の死を新選組にとって意義あるものにして欲しい。
腹を貫いた刀が、首を落とした刀が、赫く染まってその赫を滴らせるのが目に焼きついた。
嫌いでやまなかった山南の姿は、声は、呪縛のように俺を捉えている。





「山南…?」
「山南敬助。新選組の総長だった男だ。新選組ではいつも俺と山南さんがふたりで戦略を立てる」
「ほう」
「俺はいつも自分の足で戦さ場まで歩いて行くんだが、あの人は知の人だからな。俺と違って頭が良くて、何だって知っているし分かりやすく説明してくれる。なかなか意見があわねぇが、ピタリと合った時には面白えくらいに思惑通り事が運ぶ」

広げられた戦略図を見ながら、懐かしいなと口角を上げる。
腕を組み聞いていた大鳥はふむと一つ頷いて、ならばと胸を叩いて見せた。

「今は私がその山南さんに成り代わろう。土方くんはその経験による戦術で、私は私の持つ知識で…」
「辞めておけ」
「は?」
「辞めとけというか、成れねぇよ、あんたじゃ」

幾分冷たい声が出たことを自覚し、クッと自嘲する。
僅かに唇を尖らせている大鳥に何もあんたを否定しているわけじゃないと首を振り、懐かしい人を想った。

「あんたはあんたでいい。今の俺は大鳥圭介と共に戦っている」
「…そうか」

心なし嬉しそうに頷いた大鳥に、単純なもんだと可笑しくなる。
この人の魅力は、こういうところなのだろう。
近藤はそこに立っているだけで人を惹きつける天才であった、そして山南はその人柄で人に好かれる天才だ。
そういう魅力が、いつも俺の目には輝いて映る。


「山南さんには、誰も成れねぇ」

山南敬助は俺の嫌いを形にしたような男だった。
逆に好きなんだろうと沖田は言ったが、俺の山南に対する感情は好きだなんてものじゃない。
俺は山南が大嫌いだ、きっと山南も俺のことを嫌いだったろう。
俺たちは正反対で、それでいて全く同じ。
互いに邪魔な存在だった。
…そうして互いに、変えの効かない片割れだった。



end



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Date:2016/07/21
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