【梅花春月】 木っ端微塵
 

梅花春月

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木っ端微塵

明治
斎藤視点 斎土






砕け散った、それはまさに砕け散ったと言うに相応しかった。
その報せを受けた刹那、斎藤一という人間を形造っていたものは、木っ端微塵となって地に伏したのだ。
会津に残ると決めた時、自身の命について土方に告げていた。
斎藤一は貴方の為に、山口二郎は殿の為の。
新撰組の斎藤一が護るべきは、共に戦うべきは、愛する人は、たった一人貴方であると。


天を仰ぐと、真っ青な空にほんの僅かに白くかかる雲。
先だっての戦など知らぬというようにのんびりとゆったりと揺蕩っている。
ここは新撰組のあった京や彼らの郷の江戸よりも春の訪れがずいぶん遅い。

政権の変わったこの国で、きっと戦はもう起きない。
自身は分かっていたのだ、きっと、何処かで。
戦のない国で、あの人は生きられない。
土方は誰よりも侍であったから、近藤のために戦う、それだけが彼の生きる道であったのだから。
近藤も沖田もいなくなって、新選組はなくなった、新選組が守るべき幕府も今はない、そんな中、彼は生きようとなど思わないだろう。

自身の知る土方歳三という男は、日本を良くするためにだとかこの国のためにだとか、そんなことは一切考えたことのない人間だった。
むしろ、そんなことを言う人間は偽善だと、吐き捨ててしまえるような人だった。
土方はただ、近藤のために、新選組のために、己が武士であるためだけに生きてきた男だった。
そういう男だったからこそ自身は彼を信用できたし、この身を捧げても良いと思ったのだ。



不意に、土方は桜より梅が好きだったと思い出す。
全てが終わったら、彼の郷で春を迎え、咲き誇る梅の木の下に二人きり、花見をしたいといつかの睦言に囁いた。
俺たちにそんな悠長なことをしている暇があるかと土方は眉を寄せたが、夢を見るくらい構わないだろうと俺は諭した。
何もすぐに見たいというわけじゃないんだ、歳をとって刀じゃなく杖を手に握るようになる頃で構わないから、それまでずっとあんたが俺のものであったら良い。
そんなことを言ったように思う。

花見どころか外での逢瀬をする余裕すらもなかったなと苦笑する。
土方との関係に不満があったわけではない、どころかこれ以上なく強い繋がりの関係性であったはずだ。
ただ、そう、言うなれば、一度くらい普通の男女がそうするような、そういう真似事をしてみたかった。
鬼の副長と、三番組組長が、である。
とんだお笑い種だが、それもまた一興だろう。
そういうのも、良いと思った。


「あの世というところには、梅は咲いているんだろうか」

ぽつり、溢れた疑問に答える者はない。
とはいえ自分たちはきっと極楽へは行けないから、望みをかけるなら地獄となる。
あの土方のことだから、地獄の鬼に梅の一本くらい植えさせそうなものだと笑う。
いや鬼副長と呼ばれた土方のことだ、地獄でまた鬼でもやっていたら、こんな面白いことはない。
想像して、つい声に出して笑ってしまった。

自分がそこへ行くのはいつになるだろうか、早く時が来れば良いのにと思う。
そうしながら、土方の死と共に砕けて消えた斎藤一という人間を少しばかり想った。



end



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Date:2016/07/01
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