【梅花春月】 約束
 

梅花春月

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約束

幕末
沖田視点 沖土





果たされることがないと知っていたから、敢えてそれを約したのだ。
違えてしまったことを後悔し、いつまでも心の片隅で囚われてしまうように、忘れられないように。
そう、何だって良いのだ。
ただ憶えていてくれるのなら、どんなことだって。


「もう、行ってしまうんですか」

病床に臥し、ただ横になっているだけだというのに日に日に衰え弱っていく身体。
数ヶ月前までそうしていたというのに、もう満足に風を切って歩くこともかなわないのだ。

「行って、しまうんですね…」

ああ、と低い声がそれだけ答えた。
時間に僅かの余裕もないことも、二度とその人の前に立ち意のままに刀を抜くことができないことも、知っていた。
認めるのが嫌で、争い続けて、けれど無慈悲なことに病はどこまでも身体を冒し続けた。

「…土方さん…ねぇ、土方さん」

痩せて骨と皮ばかりとなってしまった腕を伸ばす。
こんなことすら、一苦労なのだ。

「私も、連れて行ってください」

貴方たちの向かう先へ、どうか共に。
それは初めて京へ向かおうと言い出したあの日と同じ願い。
同じ願い、同じ想い、それなのに、あの頃の希望も羨望も期待も、決して重なることはなく。

「ねぇ、土方さん」

共にいられればそれで良いのだ。
この言うことを聞かなくなった身体でも、例えば貴方に向かう銃弾をひとつ、代わりに受けて守れるのなら。
何かひとつ、どんなことでも、役に立てるのならただそれだけで、私の命は輝きを増す。

「ねぇ」

応えてくれないことに業を煮やし、身を起こそうとして咳き込んだ。
痛々しいとでもいうみたいに眉を寄せて、唇を噛む、そんな顔を向けて欲しいわけじゃない。
吐き出した血は、こんなにも赤い。
それは確実に身体を蝕んでいるものなのに、逆に生きていることが痛感できた。
そう、まだ、生きているのだ、生きている限り共にいたい。


「総司、総司!」

私を呼ぶ声。
慌てて人を呼ぼうとするのを制止する。
ねぇ、誰も呼ばないで、連れて行ってくれないのなら、せめて今の貴方だけは私のもの。


「…おいて、か…ない、で」

途切れ途切れに紡ぐ言葉。
以前のままに太く逞しい腕が痩せきった身体を包み込む。

「必ず迎えに来る。俺たちが突破口になって幕軍を盛り返したら、そん時はお前の出番だ」

だから必ず、迎えに来るから、それまでにその身体を以前にも増して逞しくしておけと、涙の混じる声が言う。
広い背に、腕を回した。
貴方は嘘つきだ、迎えになんて来ないくせ。
その頃にはきっと私はもういないと分かっているだろうに。

「…土方さん…、きっとです、よ。迎えに…」
「分かってる。約束だ、置いていったりしねぇ、必ず迎えに来てやる」

あぁ、やはり貴方は甘い人。
私がそれにつけ込んで、どんな想いを抱いているかも知らないのだ。



約束ですよ、貴方と私の。
どうかどうか憶えておいて、貴方の隣に私が生きていたことを。
約束など幾らでも違えてしまって構わないから、ただ私を憶えておいて。

「ずっと、待って、いますから…ね」

もうここへは、戻ってこなくて構わないから。



end




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Date:2016/06/10
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