【梅花春月】 他のなにものでもない
 

梅花春月

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他のなにものでもない

明治
木戸視点 大木戸





「貴方は、無類の酒好きだとか」
「え? ええ、まあ。酒は好きですが」

なぜ大久保がそんな話題を口にしたのかは分からないが、特に否定すべきことでもなく事実でもあったため素直に頷いた。
そうですか、と言い、少し黙する。
なんだろうかと小首を傾げると、再び開いた唇がまた尋ねる。

「では、他に好きな食べ物は?」
「はあ…焼き上げ豆腐などは好きですね。最近は体調があまり良くないもので、さっぱりとしたものの方が好みますが」
「なるほど」

そうしてまた口を噤んでしまった大久保に、此方からも問い返すべきだろうかと眉を寄せる。
というよりも、それは執務室の前でするような話なのだろうか。

「あの…」
「では、それらが皆食べられなくなったらどうします?」
「は?」
「ですから、それらを口にできなくなったら」

問いの意図を測りかねる。
しかも、大久保は普段通り至極真面目な顔で問いかけているのだ。

「あの…その質問に、なんの意味が?」
「意味などありません。ただの世間話です」

貴方はこういった意味のない世間話を好むでしょう、と全く悪びれず言ってのけるそれを嫌味だと受け取る。
ムッと顔を顰め、意味のないことを好んでいけませんか、と言えば、いえですからこうして私とも世間話をしてもらおうと思ったのです、と大久保は答えた。
此方を怒らせたいわけではないらしい。
全く意図が掴めないまま先の質問に答えないでいると、大久保は問いを変える。


「では、私の想いしか食べられない体になってしまったら、どうされますか?」
「は?」
「私の、貴方に対する好意の気持ちしか食べられなくなったとしたら」

この人は一体先程から何を言っているのか。
けれど相も変わらず真摯に見つめてくる大久保に、なんだか此方も真面目に答えなくてはならない気がしてくる。
こんな、下らない、起こり得ない話であるというのに。


「もしそうなってしまったら、私は餓死を選びます」
「餓死を?」
「ええ」
「…そうまでしてでも、私の想いを受け入れてはくれませんか」
「ええ、貴方の愛など、要りません」

にっこりと、特別綺麗に笑ってみせる。
一見平生通りに見える大久保の、その瞳に小さな落胆の色が見えた。

「話は、終わりですか?」
「…そうですね。やめましょう。詰まらないことを聞きました」

引き止めて申し訳ない、とだけ告げ、大久保はひらり身を翻す。
コツコツとブーツの音を立てながら大久保が去っていく。
その背を見送ってから、自身も自らの執務室のドアを開けた。


貴方の愛を食べなくては生きていられなくなってしまったなら、僕は飢え死ぬことを選びましょう。
貴方の想いなど、決して受け取りはしない。
だってそうしてしまったら、貴方の僕への想いが減ってしまうから。

ほかのなにものでもない、それだけは。



end



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Date:2016/05/11
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