【梅花春月】 沈黙
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梅花春月

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沈黙

明治2年 五稜郭
榎本視点 榎土






勝てるか、と問うと、いつも自信満々な笑みを浮かべ、勝つさ、と言った。
事実、彼は常勝将軍と言って良かった。
明らかに不利な戦況、寄せ集めた兵は疲弊し不安も大きく安定しない、負け戦も込んでいた、その中で、彼がいるといつだって負ける気など起きなかった。
死に場所を探して戦い続ける彼と、彼を慕い続ける仲間と、彼を味方する戦の神。

彼としたたった一つの約束は、死ぬな、と、ただそれだけであった。
死に場所を探す彼を真っ向から否定するその言葉を、初めは交わし続けていた彼。
それが、自分がこの戦にかける意義を解き、説得し、漸く苦笑しながら受け入られた約束。


「我々は、投降する」

下した決断に、多くの者が涙をのんだ。
けれど、皆が皆、勝つ術も抗う術ももうないのだという状況を分かっていたから、死ぬまで戦い抜こうというものは、もう殆ど無かった。

「出来ることは全てやった。あとは、我々と争い続けた政府がこの先どうしていくのか、この日本がどうなっていくか、見届けよう」

それが我々の最後の使命だと思った。
それでも、彼がここにいたら、それでもまだ戦うと言っただろうか。
きっと言っただろうなと苦笑する。
最後の一人になろうとも、勝つさ、と笑みを浮かべ、勝ちに行こうと戦い続ける。
彼は、そういう男だ。

「降伏する私を、君は情けないと言うか?」

問いかけた言葉に、返事はない。
ふ、と笑みを浮かべる。
笑みを浮かべたはずだったが、頬を熱い滴が零れ落ちた。
視界が歪んで、ああ泣いているのかと、漸く気付いた。


「君は、たった一つの約束も守ってはくれなかったね」

けれど彼は幸せだったろう、彼の渇望した戦いの中での死を全うできて。
誰も、何も返してはくれない、端から見ればただの独り言に過ぎないそれを、けれども耳を澄ませていれば何事か彼が言ってくれるのではないかと。
瞳を閉じ、耳を澄ませる。
沈黙は、破られない。



end



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Date:2016/04/16
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