【梅花春月】 引き裂かれたあと
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梅花春月

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引き裂かれたあと

明治10年
大久保視点 独白






冷たい雨が打ち付けている。
体は冷え切って、もう寒いのかどうかさえ判断がつかない。
どうして、という問いは、何度唱えたところで誰も答えを与えてはくれなかった。

考える間も、息つく間も、そんなもの与えられるほど時間に猶予はなく、目紛しく過ぎてゆく時の中で、嘗ての友は自刃した。
最悪の別れだった、と大久保は思う。
友人は、故郷の英雄で、この日本が誇るべき大人物であった。
大久保はそんな友を惜しみなく尊敬していたし、偽りなく敬愛していた。
それを、死に追いやったのは、自身だ。
否、自身ばかりが悪いというわけではない、目指す先が違ったのだ、致し方ないことであった。
そう理解はしていながら、それでも大久保は自身に責任を問う。

友の死よりも先に病に斃れた、長州出身の涼やかな目をした男が、嘲笑っているように思えた。
やっと分かったか、と。
大切なものを失う苦痛、悲愴、悔恨を、漸く知ったかと。

嗚呼、あの人は、と大久保は木戸を思う。
こんな悲しみを、何度となく繰り返してきたのかと。
己の無力さを痛感し、ただ悔いることしかできない日々を、幾度も重ねてきたのかと。

いつまでそうして嘆いているおつもりですか、とは、嘗て自身が木戸に投げかけた言葉だった。
憎しみを目一杯込めた瞳で、何も言わずただ睨み据えていた、あの日のことを鮮明に覚えている。
同じ言葉を、今自身が吐き棄てられたらどう思うだろうか。
殺意を押しとどめて睨みつけるだけですますことなど、できるだろうか。


雨が一際強くなってきた。
この雨の中外に出る物好きもそうは居まい。
頬を流れる水滴だけが冷たい雨粒に反して妙に温いのは、きっと体温を奪っているからだと思い込んだ。
この雨とともに溶けてしまえたらいいのに、とはほんの僅かに思いながら、犠牲になった友の分まで、自身がこの国を創り上げていかなければとかぶりを振った。



end




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Date:2016/04/10
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