【梅花春月】 かわいいひと
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梅花春月

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かわいいひと

幕末
沖田視点 南土←沖






麗らかな陽気に眠気を誘われながら縁側に座り懐から一冊の帳面を取り出した。
彼が隠しながら日々書き留めた発句帳を開き、その一つ一つを指でなぞりながら頭の中で言葉を紡ぐ。
お世辞にも上手いとは言えないその稚拙な言葉たちに彼の素直さと不器用さを思いくすりと笑う。
ぱらぱらと捲っていくとそのうちに、あぁこれはいいな、と思うものがあった。

「さしむかう 心は清き 水鏡…」

口に出してみればストンと胸に落ちてくる感覚に、嗚呼やはりと思う。
京へ登ると決めた日の、彼の顔と言ったら、いい歳をしていつまでも多摩でふらふらと燻っていた人とは思えないほどに煌めいていて。
武士になりたいと、いつかは必ず侍になると、夢物語のような熱意を幼い頃から変わらず胸に抱いていた彼。
その志はいつまでも、自分や近藤達と水鏡に写しているように同じであると。

いいなぁ、としみじみ思いつつ、もう一度口に出す。
普段ものを口にするときとは正反対に、思うまま素直な気持ちしか句に起こせない彼の、彼らしい言葉。


「何をしてる?」
「わぁ!」

不意に背後から声をかけられ、驚いて句帳を落としてしまった。
慌てて拾おうとするより早く、声の主がそれを拾う。
拾ったものを確認するなり、不思議そうだった表情を一変させ、怒鳴り声をあげる。

「総司! てめぇ何勝手に人のモン持ち出してやがる!」

しまったなぁ、思いながら叱られてしゅんとしている振りをして、でも…と言い訳をする。

「土方さんがどんな句を詠むのか知りたかったんですよ…。それに、私とっても好きな句を見つけて…」

言い終わる前に、ピクリと彼の片眉が上がる。
取り上げたばかりの句帳を広げ、どれだと問いかけてくる様に簡単な人だなぁと笑いそうになるのを堪え、先ほど声に出して読んだ句を指差す。

「これですよ、この句が」
「あぁ、これか」
「とっても素敵で。私、土方さん達と京に来て良かったと本当に思うんです」

先ほどの怒りなど何処かへ行ってしまったようで、彼は満足そうに笑っている。
それから、と別の句を指差して、これもと言うと彼は今度はハッとした顔で此方を見た。

「これも、とても素直でいい句だと思いますよ」
「おい総司、これは…」
「優しくて穏やかで、辺りを柔らかに…でも確かに照らしている。あの人にぴったりだと思いますよ」
「おい、何を言いやがる。違うぞ、これは」
「普段も句作をするときくらい素直になれば、あの人も喜んでくれるでしょうに」

なんてね、と冗談交じりに笑い立ち上がる。
照れと怒りの怒号が飛んでこないうちに、さっさと逃げてしまうのが吉だ。
あまり揶揄い過ぎると、彼はすぐに機嫌を損ねてしまうから。


「大好きな春の月に例えるくらい大好きなら、本人にそう言えばいいのになぁ」

他人を目の前にして素直になれない彼は、句帳の中では人が違うかのように素直だ。
そういうところが愛おしくて、けれど他の人に見せてしまうのはなんだか勿体無いような、自分だけが知っておきたいようなむず痒い気持ちになる。

「山南さんが知ったら、きっと喜ぶのに」

足を止め、ぼんやりと空を仰ぐ。
あーぁ、と声を零し、自分でもなんだか分からない感情を持て余しながら呟いた。


「…かわいいひと。」



end




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Date:2016/03/29
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