【梅花春月】 親子喧嘩
 

梅花春月

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親子喧嘩

幕末 試衛館
土方視点 近藤親子と土方





常のように朝から石田散薬を売捌き、日が傾きだした頃になって試衛館へ赴いた。
勝手知ったると声をかけることも無く中へ入ると、珍しく大先生が出掛けるところに出くわした。

「勝っちゃんは道場ですか?」

にこやかに声を掛けると、何が気に食わなかったのか、細い目でギッと睨まれる。

「周斎先生?」
「あんな奴のことは知らん」
「…何かあったんですか?」

小さなことに機嫌を損ねている姿はよく見るが、どうもその原因は近藤らしい。
何があったのだろうと首を傾げていると、歳のせいか随分白の濁った老師の瞳が此方を見つめていた。

「…あの、周斎先生?」
「やっぱり儂は間違っとらん」
「は?」
「こればっかりはな、歳三。勇が何と言おうと譲れることじゃあねえ」
「はぁ…、そうですか」

言いたいことだけ言うと此方の問いかけには何一つ答えず出て行った大先生を見送り、道場へと足を向けた。
相も変わらず食客の連中が木刀を振ったり門下生に指導している中に近藤の姿が見えず、また首を傾げる。
勝っちゃん知らねえか、と声を掛けると態々稽古の手を止めて此方を見た山南が、近藤さんなら中の間にいましたよとにこやかに応えた。
それに了承と礼の意味を込めて片手を上げ、教えられた通りに中の間へ行く。
襖を開くと、近藤は此方に背を向けて座していた。

「勝っちゃん?」

声を掛けると、歳か、と言う問いがあり、そうだと答えると此方を振り向いた。
憮然としているその顔に、どうやら大先生が機嫌を損ねていたというよりも、珍しく親子喧嘩でもしたらしいと知る。
どうしたんだ、と尋ねると、近藤は大先生と同じように此方をじいっと見詰め、やがて憤慨したように荒く息を吐いた。

「幾ら父上といえど、今回の件については俺は絶対に譲らん」
「って、大先生も同じこと言ってたぜ、若先生よ。…何があった?」

呆れながらも近藤の対面に座し話を促す。
すると、もっと此方に来いと言うから、低い姿勢のまま畳に体を引きずって近藤の方へ近寄ると、突然腕を引かれ体勢を崩したところを太い腕に抱き込まれた。
なんなんだと思いながらも大人しく胡座をかいた近藤の上で背を向けて抱き締められていると、近藤はやがてぼそぼそと話し出した。


「父上がな、俺くらいの歳の頃にそれはもう絶世の美女と契ったことがあったと言うんだ」
「あぁ、あの人も相当好色だからな」
「それは良いんだ。ただ、あんまり綺麗だったと繰り返すから、どれほどのものかと聞いたんだ」

ぎゅう、と抱き締める腕の力を強めた近藤に、一体それでどうして喧嘩になるんだと問うと、伺うように此方を見る。
なんだ、早く言えと促すと、どうにも歯切れ悪く、あぁ、だとか、うん、だとかを繰り返すから、段々と苛立って語気強く近藤の名を呼んだ。
びくりと肩を跳ねさせ、やがて済まなそうに、似ていると言うんだ、と言う。

「誰に、似てるって?」
「…お前に」
「はあ?」
「歳に…、正確にはもっと幼かった頃の歳によく似てたって」

まさかそれで二人して自分の顔を見ていたとは、と呆れて言葉も出ない。
半ば頭の痛い思いでため息を吐き、それで、と話を続けた。

「あんたは、俺が女みてぇに言われたことに怒ってんのか?」
「だってだぞ、歳。父上はお前が女だったら今頃妾にしていると言うんだ」

何を馬鹿なことをとは思いながらも、自分のことでこうまで怒してくれるのは嬉しいものだなと僅かに笑みが浮かぶ。
ありがとうと口にするのも照れ臭く、躊躇った後、自分の胴に回されている手の甲をするりと撫でた。

「こんなに腹の立つことはなかった」
「勝っちゃん…」
「お前が女だったら、今頃お前は俺の嫁だ」
「……あ?」

一瞬、自分の耳が壊れたのかと思った。
頭が言葉の意味を理解するのに時間を要し、理解したところで聞き間違いだったろうかと近藤を振り返る。
近藤は恍惚とした目で俺を見ながら、腹の上に置いていた手で慈しむようにそこを擦った。

「お前に似た美人な子を産んでな、女の子ばっかりなんだ。だから男が出来るまで何度だってな、それで、お前はその度可愛くて…」
「…勇さん」
「そうだ、そうやって俺を呼んで、床で俺がお前を呼ぶ度恥ずかしがって顔を赤くして背けるんだ。その癖普段はこの道場の誰より逞しくてな、俺はそういうお前に…」
「おい、勇さん」
「父上の妾になんてするものか。なぁ歳、そう思うだろ? …歳?」

女を落とす時にだって見せないような、艶かしい表情で笑ってみせると、近藤はポッと顔を赤くした。
抱き締められていた腕を緩め、近藤の膝の上で対面に座り、両手を伸ばして頬を包む。
甘やかな笑みを携えたままゆっくりと近付き、唇が触れそうな距離で一気に背を反らして額同士を打ち付けた。
ぐわん、と頭の中が回る。
自慢の石頭だ、された方は堪らないだろうと見やれば、ぐぉおおと苦痛に呻きながら近藤が頭を抱えている。
ケッ、と喉を鳴らし立ち上がり、近くに置いてあった湯呑みの中身を蹲る近藤の頭に躊躇なく浴びせ掛けた。

「一生喧嘩してやがれ馬鹿親子」

全くくだらないことに巻き込んでくれたものだと寧ろ此方が怒りたい気分で部屋を出る。
ピシャリ、乱暴に襖を閉めたところで、どうにも自分の顔が熱くなっているらしいことに気が付いた。
馬鹿に頭突いたせいだ、と言い訳をして、今日のことは何もなかったことにする。



end



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Date:2016/02/08
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